トリーが家にやってきた

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1.
サンタクロースがくる月のはじめころ
家からすこし遠い大きな病院で
トリーはうまれた。
2.
心臓に病気をもっていることが
うまれるまえにわかっていて。
生後1ヶ月も経たないクリスマス前には
トリーがダウン症だとわかった。
3.
『トリーの染色体ひとつ
とってあげれたらいいのに。』

パドルは、
妻のマドレがそうつぶやいたことを
今でもつぶさに憶えている。
そんなことが叶わないのは
ふたりともよくわかっていた。

4.
しばらくはなやみに次ぐなやみ。
トリーのことを
親兄弟にはどんな風に、
どうやって伝えようか。
ともだちには?トリーの姉のソフィーには?
これからトリーをどうやって育てたら?
5.
いろんな考えが頭をよぎっては
まとまらずにぐるぐるするだけ。
たくさん調べて、読みあさって。
寝ても覚めても頭の中から離れない日々。

普通に産んであげれていたら。
マドレもパドルも
自分を責めることから
逃げられない時間をすごした。

6.
ただ、そんなときもずっとは続かない。
時間が解決した気持ちもあったし、
なにより仲間の存在に助けられた。
『こんなにたくさん
トリーの仲間がいるんだね』
たやすく仲間と繋がれる時代に感謝した。
7.
普通じゃない仲間たちの輪に入って
パドルとマドレは
トリーが普通であることを知った。
普通じゃなかった仲間たちの輪は
ふたりにとっての普通になり、
やがて家族の生きる社会になった。

トリーは
家族が生きる社会の幅をひろげてくれた。

8.
小学校にあがったばかりの娘のソフィーから
いつか聴いたようなことばで
パドルは質問をされたことがある。
「ぶひんをひとつはずしたら
トリーはみんなといっしょになるの?」
ひみつの質問は、いつだっておふろの中だ。
9.
ソフィーは続けた。
「わたしね、
トリーのいっこおおいぶひんを
いつかはずしてあげれたらいいなって
かんがえていたことがあったの。
りょういくとかって、
トリーも、ママとパパも大変そうだから。」
10.
『いっこ多い部品をはずす…
トリーがうまれたばかりのころ
ママも同じようなことを言ってたよ。
…それで、ソフィーは今もおんなじ
気持ちなの?』

「ううん、
トリーが今のトリーじゃなくなっちゃうなら
そんなことはしなくていい。
今はそうおもうようになったよ。
だって
そのまんまのトリーがだいすきだから。」

11.
おふろからあがると、ママの今の気持ちを
こっそり確かめにいったソフィー。
『今はもうしなくていいと思ってるよ。
そのまんまのトリーがだいすきだから。
そのまんまのソフィーが
だいすきなようにね。』

ママと気持ちがおんなじで
ソフィーは安心した顔でうなずいた。

12.
トリーが家にやってきたあの日から
すこし、またすこしと
家族の普通がひろがって。
ショーダウン家を取り巻く社会は
ありのままを認め合えるものに
一歩、また一歩と近づいていく。
13.
あなたの暮らす社会もまた、
ありのままのあなたが認められる
そんな場所になりますように。